網膜色素変性症は霊障か・・・!? 


          


  網膜色素変性症と いう病気がある。これは、網膜に色素が沈着することで、徐々に徐々に視野が狭 窄(きょうさく)し、ものが見え辛くなっていく病気です。 1996年に厚生省から正式に難病認定されました。この網膜色素変性症の原因はまだ、明らかとなってはいないのですが、これに対して、網膜色素変性症の原 因は霊障によるものだと論ずる霊能者がおります。その論の掲載されているサイトは、 http://shinnou-masakado.web.infoseek.co.jp/reisho-2.htmlで、 『「白毫(びゃくごう=第三の目)」を塞いでしまう病気「網膜色素変性症」』という項目がそうです。僕は、この論に対して批判と検討を試みたいと思う。


  先ず、網膜色素変性症と言うのが、どういう病気であるかをあらかた説明しておきたい。眼の中に入った光は、眼底の網膜で焦点を結び、その情 報が脳に送ら れて、“見える”という視覚が成立します。網膜には1億1千万個もの視細胞という、光を感知する細胞が集まって構成されています。 網膜色素変性症とは、要するにこの視細胞が、年齢よりも早く老化して機能しなくなってしまう、両眼性の病気です。視細胞が働かなくなった部分は光を感じ取 れず、映像になりません。それが視野狭窄となって現れるのです。
                        
                             
                                        【↑ 網膜色素変性症患者の病気の進行に伴う見え方】

この病気の特徴は、症状が非常に遅く進行することであり、検査をしても1年単位の感覚では症状の悪化が分かりません。5年位かかってよう やく視野狭窄の進行が確認される位です。 人によっては進行の度合いに差があり、30代や40代の内に大分進行してしまうこともあれば、80歳になっても健全な視力を保っている人もいこの病気の 発病頻度は、人口3000〜8000人に1人の割合で、その大体が遺伝による発病です。  

 さて、これを霊障とするエセ霊能者・神鏡の論を批判していきましょう。先ず、この病気に関して、神鏡は「視神経に憑依をしている霊 体は目を見えなくさせ る為に浮遊霊に限らず霊体を目の部分に集め出すのです。その霊体の集まるスピードが非常に遅い」と述べておりますが、浮遊霊に限らず霊体を 目の部分に集め るのだとしたら、強烈な悪霊を集めることも可能ということになります、そうなると、その強烈な悪霊でもし、様々な浮遊霊を従えていたり、強く他の霊を引き 寄せる者が来た場合、どうなりましょう?霊体の集まるスピードは一気に加速する筈です。ですから、この言というものには、何だか矛盾が感じられるのです。 この言では、何故一概に病気の進行度が遅いかの説明が十分にされていないと思われるのです。

 そして、『しかし、この病気も普通の霊障と同じく、「霊障の診断」におい て何も変化がなければ対処出来ません』、『「霊障の診断」が 出来ないのは「確実 に疑っている」と考えられるのです、「網膜色素変性症」という病気が患者さんの白毫を完全に塞いでいるのです』 とありますが、これはある意味、論理的に矛盾があります。と言うのは、網膜色素変性症が霊による病気であり、その霊は併せて判断能力を司るとされる白毫も 塞ぐのです、とこのエセ霊能者は述べておりますが、もしそうであるならば、この網膜色素変性症が霊障であるかどうかの確認も出来ないということになりま す。「霊障の診断が出来ない」のに、どうして霊障であると判断出来るのでしょうか?そ して、この病気の患者は人を信用するのに必要な白毫が塞がれていると 言うのですから、信用する人で無いと治せないという霊能者の言によれば、この病気は霊的に治療不可能ということと同じではないでしょうか?非常にパラドク スですね。  しかも、この人のサイトによりますと、この霊能者は霊視が出来ないそうであり、
http://shinnou-masakado.web.infoseek.co.jp/uroko.htmlの サイトの、「あとがき」という項目に「私は夢の中で神々や霊体のメッセージ を受け取りますが、この夢が私にとって唯一の神霊界、霊界との接触です」とあり ます。夢でしか霊についての判断が出来ないというのも非常に曖昧なものですが、網膜色素変性症に対して、霊視も出来ない、又、白毫が塞がれている為に疑い 深く、治療が出来ない、ということであれば、これは最早大きな矛盾でありますし、このエセ霊能者が自分の勝手な憶測でしかこの病気の原因を述べていないと いうことの言質になってしまいます。

 僕はこのようなパラドクスを見て、ある数学の証明問題を思い出しました。それは、『フェルマーの最終定理』という本に書いてあったのですが、こういうも のです。みんなも考えてみましょう。 先ず、 
                          
                                   
A=B


とします。両辺にAをかけると、
                   
                                   
A²=AB


となります。次に、両辺に“A²−2AB”を加えると、
               
                               
A²+A2−2AB=AB+A2−2AB


となります。これを簡単にしますと、
                
                                 
2(A²−AB)=A²−AB


 となりますね。最後に両辺を“A²−AB”で割ってみて 下さい。すると・・・                     

                                        
2=1


 となってしまうのです。これは実際にヴォルフスケール賞という数学的な問題に応募した人の多くが引っかかってしまった典型的な失敗の例である そうですが、 これはどこが間違っているかというと、その前提に問題があるのです。A=Bと これは最初にしていますよね。 それならば、A²−ABとは即ち、A²−A²=0ということになります。つまり、最後の所の “A²−AB”で割るということは、「0で割る」ということに等しいと言えるのです。そして0で割るということは危険 なステップであり、0で割ることに よってどんな量にでも自在に姿を変えてしまうからです。丁度無限“” でかけたり割ったりするのと同様で、0で割ることそのものが数学的にナンセンスなこ とであり、A=Bとしたことによって、この方程式の展開そのものも余 り意味を持っていないということになるのです。  


 又、このエセ霊能者は網膜色素変性症について、「最後には目が見えなくなる 病気です」と言っておりますが、誤解を解く為に僕が説明しますと、この病気に よって視細胞が老化・萎縮し、従ってそれに対応する視野も低下こそしますが、完全失明することは殆ど無いというそうです。この病気について、いずれは失明に至るという表現をよく見かけますが、これは間違いであり、初発年齢や進行速度の 度合いにより、生涯の生活レベル・QOLにも大きな違いが出て来ます。幼 少時で既に視力低下の症状が出ている場合は、30代・40代で視力が0.1以下となる例もありますが、高齢になるまで健全な視力を保っている例もありま す。大体、発症から40年間までは約60%が視力0.2を保っているというそうです。視力0.1以下となることを“社会的失明”と言いますが、この社会的失明になる例こそ多いけれど、“医学的失明(暗黒)”になる例は極端に少ないということです(アメリカのある統 計では0.5%と出ています。確認はWikipedia: 網膜色素変性症で行って下さい)。つまり、このエセ霊能者の言う、「最後には目が見えなくなる病気です」と言うのは、実際上は殆ど見られることが ありませんので、ニュアンスとして非常に注意が必要だと思われる訳です。  

 それに、この病気が進行すると視力が低下すると言うけれど、ここで視力というのは、網膜の能力を表す矯正視力(眼科でレンズを使用して測定する視力)の ことで、裸眼視力の低下は病気の進行や網膜の能力と関係がありません。  

 さて、この網膜色素変性症の原因については、僕の所見も踏まえながら、順次解説していきたいと思います。この網膜色素変性症は多分に遺伝性であって、既に原因となる遺伝子も幾つか科学的に知られてい るようです。主に、優性遺伝、劣性遺伝、伴性遺伝な どのパターンによって遺伝することが分かっています。遺伝子の異常がこの病気を引き 起こすそうであり、現在までに明らかに原因と分かっている遺伝子には、常染色体劣性網膜色素変性症では、杆体cGMP‐フォス フォジエステラーゼα、βサブユニット、杆体サイクリックヌクレオチド感受性陽イオンチャンネル、網膜グアニルシクラーゼ、RPE65、細胞性レチニルア ルデビド結合蛋白質、アレスチンなどで、また常染色体優性網膜色素変性症ではロドプシン、ペリフェリン・RDS、ロム‐1、X連鎖性網膜色素変性症では網 膜色素変性症GTPase調節因子(RPGR)の各遺伝子が知られています(参考サイト: 難病情報セ ンター|網膜色素変性症 特定疾患情報)。

 遺伝子性の病気は、まだ現代においても余り判明していないことが多いのですが(と言いますのも、ヒトゲノムの解読作業に時間がかかった為)、これら明 かに遺伝子の異常によると判断される網膜色素変性症に対して、このエセ霊能者はどう説明してくれるのでしょうか?まさか、この遺伝子の異常ですら、所謂 「霊障」の内に含められてしまうのでしょうか?  

 遺伝と言いましても、必ずしもストレートに親子間で現れる訳では決して無く、少なくとも遺伝形式であると確定するには3世代での確認が必要だとされてい ます。そうした確認に長期を要する為に、この病気は研究が余り進んでいないのかもしれません。 例えば、X連鎖性網膜色素変性症では、これは通常男性が発 症し、その場合、患者の祖父が同じ疾患で、その娘にあたる患者の母親が保因者(遺伝子異常を持っているが発症しない)という形をとります。   


 さて、この網膜色素変性症の特徴の一つは、眼底周辺部に黒い色素の沈着が見られるということで す。併せて、網膜動脈が細くなっていたり するそうです。この色素沈着は骨小体様色素沈着というもので、これは、網膜の視細胞が老化し、萎縮して凝り固まったもので、丁度皮膚で言うシミと同様のも のです。  

 この網膜色素変性症が多分に遺伝性の病気であることは、先に述べましたが、これは恐らく、遺伝子の内の、老化を司るテロメアに異常がある為に、このよう な病気が発現するのではないかと考えられるのです。  

 2009年のノーベル医学生理学賞は、ブラックバーン、グレイダー、ゾスタック(いずれもアメリカ人)の各教授に贈られましたが、この受賞理由は「寿命 のカギを握るテロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見」にあります。

 



 人間の体細胞は50回程度の分裂・再生が出来ますが、それ以上は出来ないとされています。これは、テロメアという細胞分裂の“回数券”が分裂回数を決め ている為です。


 細胞の核の染色体を“靴ひも”と考えてみて下さい。靴ひもの先っぽはビニールで巻かれています。このビニールがテロメアで、核が分裂することで染色体 (靴ひも)が2倍になって2個の細胞に分配される時に、テロメアは染色体を保護しながら少しだけ短くなります。更に分裂するにつれてどんどん短くなりま す。このテロメアの減少=老化ということです。  


 網膜色素変性症とは、即ち眼の網膜の早期老化の病気であり、これは遺伝子の内の、網膜を司る部分のテロメアが、生まれつき異常(例えば、網膜の部分のテ ロメアだけ短い場合)である為に起こるのではないかと考えられるのです。  

  又、老化という現象とは細胞の機能低下でありますが、老化した細胞は、成長期の細胞に比して、全体的に萎縮しており、核はいびつな形をして、細胞内に 異常たんぱくの沈着が見られるのです。又、全体的に柔軟性・弾力も乏しくなっています。

 例えば、認知症には 必ず、脳の神経細胞の萎縮と、アミロイド小体の沈着が見られますが、このアミロイド小体は異常たんぱくの一種なのです。認知症の中には、若年性認知症とい う病気もありますが、これは遺伝子のテロメアの異常によって、脳の記憶を 司る部分の老化が早まり、脳神経の萎縮と異常たんぱくの沈着による脳神経回路の阻害の為に起こる病気であると考えられるのです。  
 
 同様に、網膜色素変性症においても、同じことが言えると思います。例えば、網膜色素変性症によく併発しがちな白内障というものは、水晶体が老化した為に 固く変性して起きる病気だと言うことが出来ます。丁度水が氷になると光を乱反射して白く濁るように、水晶体も凝り固まってしまうことで、白濁するのです。  

 この病気に対するエセ霊能者の文には、「すりガラスを通してみているよう な感覚」とありますが、これは網膜色素変性症においては合併症として後嚢下白内障が起こり易い為なのです。白内障は、最終的に視界が白く染 まってしまう病気ですが、そこに至る過程においては、視界に霧がかかったようになり(霧視)、 俗に「すりガラス越し」と表現されるような症状が見られるのです(参考サイト: Wikipedia: 白 内障)。  

 白内障というのは老化に伴って発病する病気であることは、一般によく知られていますが、網膜色素変性症は網膜の視細胞の老化により起きる病気であります ので、“眼の老化”という点において一致しているのです。猶、白内障 についても、根本的な原因は解明されていないとされています。これもちょっとした“難病”と言えるのかもしれませんね。  

 又、水晶体に何かものが刺さっても、白内障になります。有名な谷崎潤一郎の『春琴抄』では、美しくて誇り高い盲目の女性・春琴と、その魅力の前に献身的 に仕える男性・佐助が中心登場人物ですが、この話は最後に、春琴がある夜、遺恨の為に顔に火傷を負ってしまったのを見まいとして、佐助が己の眼に針を突き 刺して、視界が真っ白になり、盲目となる残酷なストーリーです。水晶体が傷ついたり、柔軟性が損なわれたりすると、なるんです、白内障に。現在ではまだ、 水晶体の移植には成功していないので(アイバンクは眼の角膜を保存する機関)、水晶体が傷ついてしまうと、根本的な治療が出来ません。又、白内障は遺伝性 があることも知られているのですが、これも同僚に水晶体の部分の遺伝子異常によるものと考えられるのです。

 さて、このエセ霊能者は又、『後頭部には「脳の視神経」があります』 とも述べておりますが、これは医学的に見て適切な言い方とは言えません。と言います のは、医学的に「視神経」というのは、網膜から受け取った光の信号を伝達する、脳の 前頭部の視交叉までの部分の神経を言うからです。  

視神経とは別名、第二脳神経であり、下の画像を見ましても分かりますように、視神経は前頭部に位置しているのです。
 因みに、動眼神経や眼神経は眼球の動きを司る脳 神経です。





























  次に視覚路の画像を貼っておきますが、網膜から発して、視神経を通る所の視覚伝 導路と言うのは、部位によって名称が変わるのです。 両眼から出て、光の信号を伝える神経を「視神経」と 言いますが、これは「視交叉」という部分で一度交叉し、交叉してから 後に伸びる神経を、今度は「視索」と言うのです。そして視索は「外側膝状体」を経て、 後頭部に入ると、今度は「視放線(膝状体鳥距路)」 となるのです。ですから、名称の扱いに気を付けて欲しいと思う訳です。  





















 脳の後頭部が視覚を司っていることは科学的に事実ですが、これも「視神経が後頭部 に集中している」と言うよりは、「光の信号を映像に結ぶ脳細胞・ シナプスが集中している」と言った方が正確です。後頭葉の表面には 「新皮質視覚野」と言うのがありまして、ここで眼から得た光の信号を映像に結ぶ働きをしているのです。  さて、このエセ霊能者の文を注意深く読みますと、又もや矛盾点が浮かびあがってきます。と言いますのは、霊体の憑依によって視覚が阻害される為に、網膜 色素変性症における視野狭窄が起きるのだとこの霊能者は述べているのですが、映像を結ぶ働きをする後頭葉を阻害する為なのか、光の受容体である網膜を阻害 する為なのか、今一判然としていないのです。一応、このエセ霊能者のサイトにおいては、「視神経に憑依をしている霊体は目を見えなくさせる為に浮遊霊に限 らず霊体を目の部分に集め出すのです。その霊体の集まるスピードが非常に遅いのです」とありますが、後頭葉にある霊体が、前頭部の眼の方に 霊体を集めると いうのが矛盾点な訳です。  

 医学的に述べさせて頂きますが、。
視野の狭窄という症状は、 実は網膜の病変に特有の症状であり、後頭葉は直接の関係性が無いのです。網膜色素変性症におい ては、網膜の視細胞が周辺部から衰退していく為に、視野の狭窄という症状が現れるのですが、これが網膜から後ろに伸びる視覚伝導路や後頭葉に損傷があった 場合には、又違った形で症状が現れるのです。  

 左の画像は、僕の持っています、 「シンプル生理学」(共著:貴邑富久子、根来英雄 版:南江堂) の本からPCに取り込んだ視覚路と、視覚路の各部を切断した場合に生じる視野の欠損(濃青色部)を分かり易く示した画像です。

 A(左の視神経)で切断した場合は、左眼が全く見えない状態になります。Bの視交叉で切断した場合、両眼の外側半分の視野が全く見えない状態になりま す。 Cは視交叉から後ろへ伸びる視索の部分ですが、C=左の視索で切断すると、両眼の右側半分が見えなくなります。Dは新皮質視覚野へ入る左の視放線であり。 Dで切断した場合は、両眼の右側半分が、中央のごく局部のみを残して見えなくなります。中央のごく局部が何故無事に見えるかと言うと、そこは黄斑と言う、 錐体細胞の集中している部分であり、黄斑部からの繊維は、脳に達してからは他の神経線維と部分的に分かれて走行するので、後頭葉が損傷されても、黄斑部か らの神経線維は残存するのです。  


 これで見て分かるように、視覚路の損傷や病変であった場合、視野のダメージは、狭 窄という形で現れるのでは無く、片目や片側の視野が見えなくなる・・・ と言う極端な形で現れるのです。  

ですから、後頭葉や視覚路が阻害される為に、視野の狭窄が起きるのだという論は、医 学的に見て誤りであり、もし網膜に霊体が集まるのだとしたら、眼底周 辺部に現れる黒い色素沈着についての説明が付かないように思われるのです。それに、網膜というのは薄っ平い面状のものであり、その面に無数 の霊体が集まる というのは、どうも僕には違和感を覚えます。


 さて、この網膜色素変性症という病気の特徴には、鳥目(夜盲)とい う症状もあるのです。これは網膜色素変性症において真っ先に現れる症状です。この後に 視野の狭窄が現れるのです。鳥目と言いますのは、暗がりでものが見えにくくなる症状のことです。  

 何故、網膜色素変性症になると、鳥目になるかというのは、これは網膜の視細胞の仕組みにあります。網膜の視細胞には、杆体(かんたい)細胞と錐体(すい たい)細胞のニ種類があるのですが、この内、暗い所でのものの見え方を担っているのが杆体細胞です、これは一つの眼に1億個もあって、眼底 全体に広がって います。もう一つの錐体細胞はというと、黄斑(おうはんぶ)部という、眼底の中心部分に集中して存在して、その数は600万個ほどです。錐体細胞は明るい 所でものを見る能力を担っています。つまり、視細胞の数の多さと範囲の広さでは杆体細胞が勝っていて、同じ衰えるにしても、確率的に杆体細胞が当たりやす いので、先ず夜盲になるということです。このエセ霊能者に論では、鳥目について霊的に上手く説明出来ていないと思われるのです。  


 又、視野の狭窄は網膜の病気に特有であると、先に申しましたが、具体的に視野狭窄の現れる他の病気を挙げますと、緑内障、中心性網膜炎、網膜剥離等があ り、これらは皆網膜に関する病気なのです。

  例えば、緑内障とはどういうメカニズムで起きる病気であるかと言いますと、眼球の圧力(眼圧)が異常に高まることで起きる病気です。眼圧とは、眼球の中に 充満 している房水(液体)と硝子体(ゼラチン状)の圧力のことです。ここの圧力が高まるということは、即ち網膜がそれだけ圧迫されて、負荷を負うということで す。

症状としては、霧視(霧がかかったように見える)・虹輪視(灯火の周囲に虹のような輪を見る)・眼痛・頭痛等があり、重症では失明します。 視力を失った瞳孔の色がみどり色に見えるのでこの名が付けられました。因みに、霧視は、網膜剥離にも見られる症状でもあります。  

 つまり、網膜の病気はいずれも、鳥目、霧視、視野狭窄の症状が1セットで現れるも のであると医学的に言えるのです。もし、霧視や視野狭窄の症状のみで霊 障であると言うのであれば、同じような症状の見られる、緑内障、網膜剥離においても、同じように霊障であると言わねばならない道理となります。しかし、緑 内障も網膜剥離も明らかに、物理的な病気である為に、もしこれらにまで霊障論を広げようとすると、たちまち様々な矛盾点に逢着しなければならないのです。  

 そして、このエセ霊能者の論では、網膜色素変性症における、鳥目や、眼底の色素沈着、遺伝性(特に隔世遺伝)を上手く説明できませんが、今、僕の挙げた 医学的見地からの論理によれば、鳥眼は暗順応を司る杆体細胞が先ず衰退する為であり、色素沈着は網膜の老化に付随して起きる現象であり、遺伝性は遺伝子の 異常による為であると、きちんと説明することが出来ます。  又、このエセ霊能者は、この病気についての論において、『花粉症の原因と なっている「浮遊霊」が視界をさえぎっている』と述べており、「私の浄霊を受け られる方達は花粉症の方が多いのです」とも述べておりますが、これらにつきましても、どうも僕は説得力があるように思われないのです。花粉 症は大多数の人 に見受けられる軽度の疾患であるので、浄霊を受ける受けない以前に、日常出会う人においても多いので、特に網膜色素変性症に限って言えることでは無いです し、その論で行きますと、花粉症の人の大多数が同時に網膜色素変性症であっても不思議は無い筈だと思われるのです。ですが、そうでない網膜色素変性症の人 もいるので、どうかな?と僕は思います。

 又、「私の浄霊を受けられた方は浄霊後必ず視界がクリアーになったと言わ れます」とありますが、この「浄霊を受けられた方=網膜色素変性症」 であるかが 問題だと思います。普通の人が何となくクリアーになったと言うのであれば、網膜色素変性 症においては言及出来ません。この記述では文脈からいかにも浄霊を受けた方というのが網膜色素変性症であったというようなイメージを抱きやすいですが、そ れはここに書かれてないので、多分僕は違うんじゃないかと思います。  

 そして、『「網膜色素変性症」という病気が患者さんの白毫を完全に塞いで いる』とありますが、白毫は眼の病気に関して、大した関連性はないのではないで しょうか?つまり、脳に憑依する霊体が白毫を塞ぐのだとしたならば、別に網膜色素変性症で無くとも、その霊体が白毫を塞ぐ危険性は常に付きまとう訳で、眼 の病気に関連付けるには論拠が薄弱だと思われる訳です。  

因みに、白毫とは、仏の智慧を示すシンボルのようで、言いようによっては、「正悪の判断を司っている」とも言えるかもしれません。唯、お宮参りが、日本 の神々から神の玉を白毫の所に埋めて貰う等と言った話は、僕はこれまでに聞いたことがありませんし、神道上の様々な文献におきましても、見かけたことはつ いぞありません。  


 さて、網膜色素変性症を霊障とする論への反論はここまでにしておきたいと思いますが、果たしてこの霊能者の、網膜色素変性症に関する論と、僕がここで挙 げた医学的見地からの論の、どちらにより説得力があるかは、これを読む読者に任せたいと思います。しかし少なくとも、網膜色素変性症における諸特徴につい て、きちんとこの霊能者は説得力のあるように説明出来ていない為に、その論に対して、つい疑問を抱いてしまう良識ある方々が多いように、僕にはどうしても 思われるのです。           

 
追記:僕は医療系の専門学校に通っているのですが、病理学の教師に この病気に関する僕の意見を言ってみた所、先生
    は「網
膜色素変性症はアポトーシスを乗り越えた細胞が引き起 こす病気なのではないかと自分は思っている」との
    ことでした。
それから色々調べてみましたが、テロメアとアポ トーシスは密接な関係にあることが分かりまして、老化
    はテロメアが一定以
上短くなると、全身のアポトーシス作用が 促 進されて起こる現象であるらしいです。ですから、
    網膜色素変性症は、テロメアと
アポトーシスに関係のある病気 だと思われます。


                                                                管理人  荒氏
       






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